コラム「紙と生活」

このコラムでは毎回、日頃の生活で目にする紙の印刷物について取り上げます。
その紙が私たちのライフスタイルの中でどのような存在なのか、
また今後どのようになっていくのかをトレンドやデータを元に様々な視点で考察するコラムです。

お祝いやちょっとした心付けなど、お金を贈る際に使われる紙といえばのし袋。
お祝い事で、のし袋にお金を入れて贈るという習慣は実は他のアジア諸国でも昔から親しまれているということをご存知でしょうか。
今回はのし袋をテーマに、アジアののし袋文化、そして日本の歴史やトレンドなどを取り上げてみます。

アジア発 お金を贈り物に変えるのし袋

アジアに見られるカラフルなのし袋

「のし袋」といえば、日本ではお祝い事に欠かせないものです。これは他のアジアの地域にも共通しているようです。ただ日本と違うのは袋の色。日本は「おめでたい=紅白」ですが、中国、台湾、香港、シンガポール等で慶事に使われるのし袋は赤が主流。結婚式等には中華系の人々の間では「紅包(Hong Bao)」や「利是(Lei Si)」と言われる赤い袋が使われています。

このほかイスラム教徒が多いマレー系は緑色ののし袋が、韓国ではシンプルな白い封筒が一般的とか。のし袋の文化にも若干の違いはあるようですが、アジア圏では盛んに行われている習慣です。欧米ではお金ではなくギフトを贈ることが主流だからでしょうか?のし袋は「アジア独特の文化」の一つなのかもしれません。

アジア発 お金が贈り物になる紙
中華系は赤、マレー系は緑ののし袋を使用する習慣がある

余談ながら、中国の結婚式では祝儀袋だけでなくろうそくまでも真っ赤。ウエディングドレスも赤いといいますから、アジア圏でありながら文化の違いに驚きます。 それだけ赤は中華圏の人にとってめでたい色なのですね。披露宴の会場は赤一色。お金の象徴である「金色」とのコラボで、赤×金色がより好まれているそうです。

「のし」とはアワビのことだった

では、日本ののし袋に焦点を当ててみましょう。のし袋の代表といえばご祝儀袋。この袋の右上に、縦に伸びたひし形の折り紙が貼られているのをよく見かけると思います。このひし形状のものは「のし(熨斗)アワビ」と呼ばれています。 そして「のし」は「火熨斗」とも呼ばれていました。「火でのす⇒熱でのばす(乾かす)」と考えると、まさに現代でいうアイロンです。

しかしこの2つの意味を考えても、どうしてお祝いに「のしアワビ」なのか不思議ですね。 実は平安時代、祭祀などで神様へのお供え物として生のアワビが献上されていたことに端を発すると言われています。当時からアワビは貴重な物であり長寿を願う縁起物。神様へのお供え物として必須だった生アワビでしたが、鎌倉時代に入ると祭祀だけではなく、貴族や武家での弔事に使われるようになりました。それがやがて簡略化され、生のアワビを薄く切って火熨斗で乾燥させた物が代用として使われるようになったのです。昆布などの海草を乾燥させ(のして)、短冊状にした物を供えるようになりました。

アジア発 お金が贈り物になる紙

現在では、薄い黄色の紙片を熨斗アワビに見立て、その回りを紅白の紙で包んだのしや、水引とのしが袋に印刷された物が主流になっているのはご存じのとおりです。

このように、のしには「神聖なもの」という歴史的な背景があります。そして神社ではまず手を洗い清めることからも分かるように、人の手とは不浄なものだと考えられていました。その2つが結びつき、お金などを贈るときには、そのまま手渡すよりものし袋に入れて…という発想につながったとも言われています。加えて日本では贈り物をする時に、和紙できちんと包んで渡すという文化が受け継がれています。物やお金を包む事で、そこに気持ちを込めてお渡しする――そんな日本人の奥ゆかしさを思うと、のし袋の文化とはなんと清らかで趣深いものなのかと思わずにはいられません。

これからも在り続ける「のし袋」

昔から日本人の文化と深く係わってきたのし袋。友人への急なお祝いや餞別など、のし袋に入れずに直接渡す人は少ないはずです。きっとコンビニに駆け込んで、購入する場合が大半でしょう。

しかし、のし袋に入れたお金は「おめでとう」等のメッセージがこもったものです。のし袋はその思いを優しく包み伝える働きがあるといってもいいでしょう。ならば、あわてて購入して使うのは味気ないですね。前もって、自分好みのものを購入しておくといいのではないでしょうか。

墨や筆ペンの書き味を追求した高級な手すき和紙ののし袋や、最近見かけるようになったデザイナーによる斬新なのし袋も特別感があります。のし袋自体はそんなに値の張るものではありませんから、それでより深い心を伝えられると考えれば、やはりのし袋のストックはおすすめです。

アジア発 お金が贈り物になる紙

デザイン書家で手作りのし袋を創作している国分佳代さんによると、のし袋は明るめの色がトレンドで、特に最近は黄色が人気とか。ワークショップでは友人の結婚式にと、ご祝儀袋を作る人もいるそうです。このようなハンドメイド派は、カラフルな和紙をコラージュして手作りするといいます。 祝い事に使うのし袋は、昔ながらの決まりごとを踏まえさえすれば、あとはある程度自由に創作できる楽しさもありますね。

最近目にしたブログに、こんなことが書いてありました。 結婚したばかりの芸能人Aさんが、新幹線の中で偶然、芸能人B氏と一緒になったそうです。B氏は急のことでのし袋を買いに行けなかったのでしょう。普通の封筒に、のしや水引などを手書きしてAさんにお祝いを渡しました。 Aさんはその手書きののし袋にとても感動したそうです。B氏の思いがこもっていたのですね。

このようにのし袋は単なる入れ物ではなく、気持ちも一緒に包むものです。それだけに、デザインに自由度は広がったとしても、今後あまり形は変化せず使われ続けていく紙の製品なのではないでしょうか。

ハグルマ封筒企画広報部編集

参考資料
・『紙の大百科』 株式会社美術出版社
・『折る、贈る。』折形デザイン研究所/著 株式会社ラトルズ

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