コラム「紙と生活」

このコラムでは毎回、日頃の生活で目にする紙の印刷物について取り上げます。
その紙が私たちのライフスタイルの中でどのような存在なのか、
また今後どのようになっていくのかをトレンドやデータを元に様々な視点で考察するコラムです。

若い世代の方に「マスキングテープ」の使い方を聞くと、デコレーション用のおしゃれなテープというイメージを持っている方が圧倒的に多いのではないでしょうか。実はこのテープ、業務用として使われてきた歴史のある紙製品なのです。今回はその歴史や現在の使い方、愛好家のお話などをご紹介します。

業務用なのに「カワイイ」、ユーザーが育てたマスキングテープ

製品の特定の箇所に、塗装などの加工を避けるために一時的に貼るマスキングテープ。自動車の塗装や建築分野のシーリング、コーキング、エレクトロニクス分野のプリント基板上の回路保護などに使われる、れっきとした工業用品です。ところが、この工業用品が今、アート好き女子などの間で人気を集めています。いったい、マスキングテープのどんなところが人気を呼んでいるのでしょうか。愛好家に話を聞いてみました。

開発者は3Mのエンジニア

マスキングテープは1925年、米国で開発されました。開発したのは、化学・電気材料メーカー、3M Companyの技術者だったRichard Gurley Drew氏。ツートン・カラーの自動車の塗装工程において、2色の境界に貼って使うことを想定したものでした。粘着力が弱く、剥がしやすいこと、剥がした後にのりが残らないこと、紙製のため手で簡単にちぎれること、作業用のメモなどを書き込めることなどが受け入れられ、さまざまな分野で使われるようになりました。


余談ですが、Drew氏は1930年にセロハン・テープも開発。付箋紙「ポスト・イット」の接着剤を開発したのも彼の研究室だといいます。彼の活躍で、3Mは小さな紙やすりメーカーから世界的な素材メーカーへと変貌をとげ、年間売上高はDrew氏の入社当時から500倍ほどに成長しました。

日本では、粘着テープ専業メーカーの寺岡製作所(当時の社名は「日本粘着テープ工業」)が1938年に和紙製のマスキングテープの量産を開始(3M製品はクレープ紙製)。その後、海外へも輸出され、和紙製マスキングテープはいまや世界中で使われています。

アートやホビー向けのアイテムとして人気に

こうして、工業用品として普及したマスキングテープ。その使われ方に新たな広がりが出てきたのは、この5〜6年のことです。紙製とあって表面に文字や絵が描けること、透け感があるため重ねて使えば色味が変わる面白さといった特徴が、コラージュなどのアートや手作り雑貨を楽しむ層にウケて、雑貨店や文具店で扱われるようになりました。いまや、マスキングテープはハガキやカードの装飾に、封筒を閉じるのに、付箋がわりに、インテリアに、さまざまな場面で活躍しています。


メーカー側もこうしたニーズを受けて、多種多様な色、幅、図柄のマスキングテープをラインナップしてきました。もともとはハエ取り紙メーカーとして創業したカモ井加工紙(岡山県倉敷市)の「mt」シリーズはその代表格ともいえるものです。

同社では工業用に展開していたマスキングテープにファンがつき、2006年に工場見学をさせてほしいとの申し入れがあったそうで、そのとき初めて、一般ユーザーのホビー用途の潜在ニーズに気づいたといいます。それをきっかけに、パッケージやパンフレットのデザインにもこだわった、一般ユーザー向けの商品として「mt」を開発。イベントやオンライン販売、SNSを使った広報活動などを通じ、人気は全国的なものに成長します。さらには海外からも注文が入るようになり、ビジネスの成功モデルとしても名声を誇ることとなりました。

現在は、今春にオープンして渋谷の新たなランドマークとなった「渋谷ヒカリエ」に、期間限定ショップ(2012年6月30日まで)を出店中。下の写真は平日昼間に撮影したものですが、1階のエスカレーター付近という絶好のロケーションに、ずらりとマスキングテープが並んだブースは存在感バツグン。若い女性を中心に、多くの買い物客が足を止めていました。


iPhoneケースにネイル・アート、広がり続ける使いみち

メーカーが想定しなかった使い方でユーザーが活用し、そのニーズに沿ってメーカーがまた新たな商品を提供していく――。マスキングテープは、ファンのアイデアが主導で市場が広がってきたともいえるかもしれません。愛好家のお一人に、その魅力や使い方について、お話を伺いました。

インタビューに応えてくれたのは、東京在住のオーストラリア人グラフィック・デザイナー、Hello Sandwichさん。オーストラリア版『VOGUE LIVING』誌でディレクターを務めた経験を持ち、アート分野に感度の高いアンテナを持った方です。

Sandwichさんとマスキングテープの出会いは、東京でした。「数年前に旅行で東京を訪れたとき、箱入りのシンプルな色がセレクトされたものを見つけました。いま思えば、図柄が印刷されたものが流行る前のことだったのでしょう。それでも、こんな商品があるとは知らなかったので、とても新鮮に感じました」(Sandwichさん談)。

海外でも最近は「Washi Tape」として愛用する人が増えているそうですが、数年前の時点では、流行に敏感なSandwichさんから見ても、かなり斬新な商品だったようです。工業用マスキングテープは米国生まれですが、ラッピングなど向けの和紙製マスキングテープは日本発信の「Kawaii」文化の一つなのかもしれません。

実際、マスキングテープを使ったSandwichさんのアート作品に対する友人の反応は、とにかく「カワイイ!」というものだそう。「遊び心があって、楽しいんですよね、マスキングテープって。みんなをハッピーにしてくれる存在です」(同)。

そんなSandwichさんの身の回りにはマスキングテープを活用した作品があふれているんだとか。「マスキングテープって、本当にたくさんの使い方があるんです。ラッピングやスクラップブックにも使えるし、キッチン用のガラス瓶や、本・日記にラベルとして貼ってもいいし、写真なんかをコラージュしたデコレーション・ボードに使ってもかわいいですよね。ランプのような家具にも貼れるし、iPhoneケースにも。ちょっと珍しい使い方かもしれませんが、私はネイル・アートとして爪にも貼っちゃいます」。




なるほど、思いもよらない使い方があるものです。実はここ数年、マスキングテープの関連書籍やインターネット上のいわゆる「まとめ」サイト、先ほど紹介した「mt」の公式サイトなどでも、マスキングテープの意外な使い方が多数、紹介・報告されています。もともと、アート用材料として開発されたわけではなかったからこそ、自分なりの使い方を見つける楽しさがあって、クリエイターの遊び心を刺激するのかもしれません。アート用品として市民権を得て10年と経たないマスキングテープですが、一過性のブームには終わらず、むしろこれからまた市場が広がっていくのかもしれない――。今回、インタビューや写真撮影、調べものをする中で、そんな未来を感じました。

ハグルマ封筒企画広報部編集

ご協力いただいた企業・個人:
カモ井加工紙株式会社 http://www.masking-tape.jp/
Hello Sandwich http://hellosandwich.blogspot.jp/

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