コラム「紙と生活」

このコラムでは毎回、日頃の生活で目にする紙の印刷物について取り上げます。
その紙が私たちのライフスタイルの中でどのような存在なのか、
また今後どのようになっていくのかをトレンドやデータを元に様々な視点で考察するコラムです。

ご祝儀袋や贈り物に飾られる水引(みずひき)。これも長い間日本の文化に根付いている紙文化の一つです。今回は、主にハレの日に使われる水引についての現在の使われ方や歴史、そしてこれからを考察してみたいと思います。

思いを結び表現する水引

小野妹子が水引を伝えた?

水引とは、紙をひも状にした「こより」に糊を引いて乾かし固めたものをいいます。結婚式のご祝儀袋を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ではその歴史は…と言えば、驚くことに飛鳥時代まで遡ります。遣隋使・小野妹子が帰朝の際、海路の無事を祈願した隋からの贈り物に紅白の麻紐が結ばれていたことが発端だそうです。


ではどうして「水引」と言うようになったのでしょうか。代表的なものを3つほどご紹介します。

@こよりに水糊を引いて作るから
Aもともとは麻紐を着色水に浸し引きながら染めたから
B神聖な地と人間暮らす社会を紅白の水引などで引き締めたことから

違う切り口で、諸説あるのが面白いですね。
さて、飛鳥時代から使われていた紅白の麻紐ですが、平安時代以降は「くれない」と呼ばれていました。これは当時、最高級の口紅を染料に用いていたから。さらにこの時代は和紙が高級品だったこともあり、水引が庶民に普及するのは難しかったようです。
高級で高価、しかも神聖なイメージがありますから、献上品など特別なものに水引を用いたことも納得できます。

江戸時代になると、水引は一般の人々の間にも定着していきます。大正から昭和にかけては機械化によって大量生産され、装飾品などを始めとして幅広く使われるようになりました。
現在では、長野県の信州飯田と愛媛県の伊予三島・川之江が水引の二大生産地と言われ、特に飯田では全国の70%の水引製品を生産しているそうです。日本アルプスの山々に囲まれ、天竜川の流れる飯田で作られる水引は、強くて丈夫な和紙を材料にした伝統工芸品。なんと江戸時代の元禄からの伝統的手法を継承しているといいます。

世界のアーティストが注目!水引アート

このように伝統工芸品としての歴史も古い水引ですが、現代の流れに沿う形で、キラキラ光る素材のものやカラフルな色の水引が登場しています。色が豊富になると同時に、用途もさらに広がって、芸術の分野でも大活躍しているようです。

ここで水引の結び方について一言。結び方には大きく分けて「結びきり」と「花結び」の2通りがあります。
「結びきり」は一度結んだらほどけない結び方。結婚や弔事、お見舞いなど二度と繰り返してほしくないことに使います。「花結び」はほどいて何度でも繰り返し使うことができる結び方で、表彰やお祝い事など何度でも繰り返してよいことに使います。


左「結びきり」 右「花結び」

この結び方の違いをマスターすればあらゆるものを作ることができるため、水引はものづくりの材料として脚光を浴びているのです。

東京を活動拠点として水引デザインを手がけるYUI Lab.さんは水引をアートとしてとらえ素敵な作品を数多く作っていらっしゃいます。「水引は昔から誰かを想う心と共にあったもの。これからも『想いをつなぐ水引』を結んでいきたい」といいます。



YUI Lab.さん作品 ぽち袋と二つ折りのレターセット

数本の水引を結んで花や蝶などの飾りを作る講座も都市部を中心に少しずつ増えているようです。数本の水引とはさみさえあれば、思ったほどに時間をかけずにできますから、手軽でとても面白いですね。できあがった水引飾りはしおりや、箸置きにつけて飾るだけでなく、メッセージカードに添えて可愛らしさや華やかさを演出するなど、とても用途が広いのが特長です。

また水引といえば紅白のご祝儀袋に始まり、鶴や亀などの伝統工芸品といった日本文化の一つとしてとらえられがちですが、近年では日本にとどまることなく、海外でも大活躍の兆しが見えます。数多くのクリエイターが、基本の型をおさえながらも新しいスタイルで水引アートを発信しているのです。

個性的でゴージャス感あふれるアクセサリーや、結婚式で新郎の胸を飾るブートニアとして。さらにはレストランで使われるナプキンリングとして水引を提案しています。またギフトのラッピングに、リボンではなくあえて水引を使う動きもあります。アクセサリーからプレゼントのラッピングやテーブルウェアのデコレーションとして、さまざまなシーンで使われる水引。本来の結び方に加え、組紐結びや中国結びを織り交ぜてアレンジすることも可能ですから、アーティストの表現の幅もどんどん広がっていくことでしょう。


日本人の心を「結ぶ」

最後に、水引の奥に隠された思いについて考えてみましょう。日本人は古くから「結ぶ」ことに対し深い思いを込めています。
「結婚」に代表されるように、人と人との結びつきを示す言葉が数多く見られるだけでなく、日常生活の中でも「結ぶ」という事に対して気を遣っているように思います。ならば水引を結ぶということは、個人主義とは別の、「結ぶ」ことを大切にしてきた日本人の思想を反映させているととらえられるのではないでしょうか?

また水引細工は、縁起に由来したものがとても多いと思います。「鶴亀」や「松竹梅」など、幸福や長寿などを象徴していますよね。更に紅白や金銀といっためでたい色の水引で、きらびやかに動植物を作っています。まるで鶴や亀を結んで作ることで、それらの自然の生命力をも結んで包んでしまおうとするかのようです。

このような日本人の結ぶ文化…それが、一つ一つは細くても、集まれば強く大きな力になる水引に込められているのではないでしょうか。歴史や現代のトレンドを鑑みると、水引は「昔からの形を残し、思いを伝えながらも少しずつ変化していく紙」だと言えそうです。

ハグルマ封筒企画広報部編集

協力いただいた個人:
YUI Lab. http://www.yuilab.jp/

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