コラム「紙と生活」

このコラムでは毎回、日頃の生活で目にする紙の印刷物について取り上げます。
その紙が私たちのライフスタイルの中でどのような存在なのか、
また今後どのようになっていくのかをトレンドやデータを元に様々な視点で考察するコラムです。

「絵封筒」という言葉を聞いたことはありますか。
絵封筒とは封筒の宛名面をキャンパスに見立てて一面に絵を描くアートのこと。
今、この手紙アートが徐々に広がりつつあります。今回は絵封筒の歴史と現在の動きについてご紹介します。

世界に一つだけの封筒 奥深い絵封筒の世界

絵封筒とは?

絵封筒とは封筒の宛名面を使って絵を描くアートのことです。
絵といっても水彩画のように描くものから、切り絵のように折り紙や布、リボンやテープなどを使ってコラージュするものまで、郵便物として発送できる範囲内で自由に表現することができます。


基本的には、切手を貼って実際に郵送したものをいいます。その作品に合った記念切手を選んだり、投函する際に直接郵便局へ出向いてその土地特有の風景印を局員さんに押してもらうプロセスを楽しむのも絵封筒の醍醐味です。

絵封筒のはじまり

切手を貼って手紙を届けるいわゆる郵便制度は19世紀半ばのイギリスではじまりました。歴史をたどっていくと、絵封筒は意外と早い時期に個人レベルでは親しまれていたようです。

第一次、第二次世界大戦の最中、遠く離れた戦地の恋人や家族にしたためた手紙にはイラストを入れたものは実は世界的にも数多く見受けられます。絵封筒の原型ともいえるものはその時代から存在していました。
『おじいちゃんの絵手紙』(講談社)では20世紀初頭、イギリスの元軍人ヘンリー・ソーンヒル卿が遠くインドで暮らす孫たちへしたためた絵手紙についてまとめた一冊です。約30年間毎週送り続けていたのだそう。子供たちが郵便受けを心躍らせ何度もふたを開けてはおじいちゃんからの手紙を待っている…そんな情景が目に浮かぶようなかわいらしいイラストが描かれた絵封筒がたくさん紹介されています。


100年以上も前から個人レベルでは存在していた絵封筒

アートとしての絵封筒文化が開花

そして、1970年代に絵封筒がアートとして花咲きます。発祥の地はヨーロッパ、イギリスとフランスでした。

この素敵な手紙文化に寄与したのが『ゾウのエルマー』で有名なフランス在住のイギリスの絵本作家、デビッド・マッキー(David McKee)氏。マッキー氏は当時、封筒に絵を描いた手紙をロンドンにある出版社アンデルセン・プレス社の社長宛に送っていたのだそう。
その手紙を社長が気に入り、オフィスに飾ったものが話題になっていきました。出版社に来た他の画家やイラストレーターたちが、それをアートとして評価し、次々と社長宛に絵封筒を送るようになり広まっていきました。

日本では絵本作家のきたむらさとしさんが第一人者です。きたむらさんと前述のマッキー氏は絵本作家として友人の間柄だそうで、そのうち二人は絵封筒で交流するようになります。一つひとつの絵封筒には絵本の話のように続きがあり、二人の手元にはお互いの作品がどんどん集まりました。

そんなクリエイティブな絵封筒は編集者の松田素子さん、きたむらさんの企画により、2007年にefuto展(東京・大手町逓信パーク)として第一歩を踏み出します。
最終的には来場者が2万人になるほど大々的な展示会となりました。


きたむらさとしさん・松田素子さんの著書『絵封筒をおくろう』(文化出版局)は
絵封筒の魅力を伝える初めての本といわれています

広がる絵封筒の輪

そのような流れで広まってきた絵封筒は各地で展示会やイベントといった形で現在も広がっています。

株式会社カルタビアンカ(東京)とgalerie6c(神戸)は共催で2012年10月〜11月に「おたより絵封筒展2012」を開催。3都市で巡回し、兵庫、東京のギャラリーを巡回後、大阪にて開催。
敷居の低いアートとして絵封筒の楽しみ方を発信して、今年で3回目となりました。


年々参加者が増え、今年は260名からの作品が揃いました。

このイベントの主催でもあるgalerie6c代表の多喜氏は絵封筒の魅力と実際に展示を開催しての感想を以下のように振り返ります。

「古い切手って、図案が素敵ですよね。これらを活かせるものは何かと考えていたら絵封筒の文化に行きつきました。そして、この企画展が始まったのです。プロアマ問わず参加できることが絵封筒の魅力ですね。
今年の絵封筒展での新しい気づきは、当然のことながら何度開催しても、たくさんの方が参加しても同じ絵封筒が全くないということです。今後は、全国で絵封筒展を企画していろんな地域の方と楽しめたらと思っています。
これがきっかけで、手紙のよさを再認識していただきたいです。」(多喜氏)


展示会では実際に絵封筒作りに参加したクリエイターの方々の協力のもと、チャリティ絵封筒を販売。(売上の全額を東日本大震災の被災地支援の団体へ寄付)

おたより絵封筒展に初めて参加した方からは、来年もぜひ参加したいという声が多く寄せられているそうです。
その他、絵封筒は徐々に各地でワークショップの題材として取り上げられ、その楽しさを伝える動きが広がっています。

特別な手紙でありアートにもなる

手書きの絵や文字は、言葉以上に思いが伝わりませんか。
絵封筒展の魅力とはやはり、受け取る人だけに宛てる世界にたった一つの手紙であり、アートであるということではないでしょうか。デジタルの文字やイラストに囲まれる現代において、このようなアナログ感あふれる絵手紙は、今の時代だからこそ広がっていける文化ではないかと思います。

文章や絵に自信がなくてもその手間をかけたその時間、相手を思う大切なひととき、そのすべてのプロセスは受け取った方に瞬時に伝わります。

このように、絵封筒は心温まる手紙文化の一つとして、そして観賞できる作品として、これから「アート」として位置づけられる存在に育つのではないでしょうか。
今からの広がりをわくわくしながら見続けたいと思います。

ハグルマ封筒企画広報部編集

参考文献
「おじいちゃんの絵手紙」 GFL実行委員会監修
「絵封筒をおくろう」 きたむらさとし/松田素子著

ご協力いただいた方々
きたむらさとしさん
galerie6c、代表 多喜さん

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