コラム「紙と生活」

このコラムでは毎回、日頃の生活で目にする紙の印刷物について取り上げます。
その紙が私たちのライフスタイルの中でどのような存在なのか、
また今後どのようになっていくのかをトレンドやデータを元に様々な視点で考察するコラムです。

紙の宝石と呼ばれる蔵書票(ぞうしょひょう)をご存知ですか?
これは私の蔵書だということを表すための、いわば本につけるネームプレート。美しい版画によるもので、世界中にファンも多いのです。今回は、とても古い蔵書票の歴史についてたどってみます。

紙の宝石・蔵書票(前編)

蔵書票とは「エクスリブリス(EXLIBRIS)=誰それの蔵書から」という意味をもっています。その名の通り"これは私の本だよ"という事を明らかにするために本に貼る紙片のこと。その美しさから「紙の宝石」と呼ばれ、収集に夢中になるコレクターも多いのです。今回はこの、紙の宝石・蔵書票について歴史をひも解いていきます。


アルザスの画家 Henri Bacher 1900年ごろ

蔵書票の歴史をたどるために、まずは紙の話から。
その昔、中国で発明された製紙法は、シルクロードを経て西へ向かっていきます。エジプト、モロッコ、スペイン、そしてイタリアへ。ヨーロッパに広がっていくのは15世紀から16世紀のことです。当時の西欧、特に僧院で刷られた本は発行数も少なく、数冊で家が買えてしまうくらいの価値でした。盗まれない様に鎖でつなぐものもあったとか。蔵書票が生まれたのは、そんな時代背景からの自然な流れだったと言えます。


作者不明 Stockholm, grundadにて 1765年

その頃の日本はというと、印刷の技術は確立されていたものの、やはり書物は貴重なもの。ただ、日本で蔵書票が発展しなかったのは、中国で発明された朱肉があったため。日本をはじめとするアジアでは印で名前をしるす蔵書印が広まることとなります。西欧ではスタンプインキがなかったために、おのずと必要となって制作されたのが版画でできた蔵書票だったのでしょうね。


"Hanns Igler das dich ein Igel Kiis"「この本を盗むとハリネズミがキスをするよ!」という意味(図1)


楯を支えている天使 僧侶が修道院に残したものと言われている(図2)

現存する世界最古の蔵書票と言われるのが、通称「ハリネズミ」と呼ばれるもので、恐らく1450年から70年頃に木版画でつくられたもの。(図1) もうひとつは、同じく1470年頃に制作されただろう「楯を支えている天使」(図2)。当時は宗教的なモチーフ、天使や聖人、紋章などが多かったようです。


Emil Orlik 1897年(図3)

そこから日本に蔵書票が知られるまでにはずいぶんと長い年月がかかり、きっかけになったのはプラハ生まれの画家、エミール・オルリックというお方。1900年のことです。(図3)
当時の文芸雑誌「明星」で蔵書票を紹介したところ、日本の画家たちはそのセンスに仰天。しかし、それが本当に最古かというとそういう訳でもなく、江戸初期には蔵書票のはしりのようなものはあったようですし、幕末に来日した外国人が自分のために作っていたこともあったようです。庶民に本が普及するのと、版画作家が増えたことが相まって、徐々に蔵書票の世界が広がっていきます。(続く)

ライター 峰典子

参考書籍:
丸善ライブラリー「蔵書票の魅力 本を愛する人のために」樋田直人著

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