【後編】活版印刷の魅力とデザイン~現代で再び注目されている理由を紐解く~
2026/08/31
前編・中編では、世界と日本の活版印刷の歴史をご紹介しました。伝来から隆盛期を過ぎ、新しい印刷技術の登場により衰退の一途を辿っていましたが、現代に再び注目されている活版印刷。後編となる本記事では、その理由を紐解くと同時に魅力やデザインについても触れていきます。
NYで見つけた活版印刷のショップカードなど(スタッフ私物)
昭和後期、オフセット印刷の主流化が進むなか活版印刷業界にも転機が訪れます。技術面では「感光性樹脂版」が登場し、コストパフォーマンス面や入手のしやすさなどが改善されました。そして1990年代に入ると、記事前編でも触れましたが、多くの個人や中小企業が活版印刷のスタジオを創設し印刷物をつくり始めます。この現象はアメリカやイギリスなどで盛んにおこり、その後オーストラリアやカナダ、世界へと広まっていきました。その結果、活版印刷が再び注目され、その魅力が再評価されることになったのです。2000年以降には、特にアメリカ西海岸発のレタープレス(活版印刷)文化に注目が集まります。一説には、西海岸に暮らすクリエーターたちが、現代にあった活版印刷の使い方を模索し始めたことをきっかけに人気が復活した、という話もあるようです。
その他にも、活版印刷再評価の理由として「求められているものの変化」があると感じます。かつては、紙に凹凸をつくらずに印刷することが重要視されていました。しかし現代では、活版印刷特有の文字の凹凸感が、ひとつの個性やデザインとして受け入れられているのです。アナログな雰囲気を感じられる点も、温かみがあり好まれているのではないでしょうか。日本では2010年以降から活版印刷が再注目されていますが、版の種類は、昔ながらの職人技が光る活字を美しく組んだ「組版」と、デジタルデータをもとに作られた金属版や樹脂版による印刷物が制作されており、用途に応じて使い分けられています。
活版印刷は文字や絵柄がついた凸版に、インキを塗り圧をかけて紙に押し当てます。1回の印刷で1色しか刷れないなど手間がかかる部分もありますが、独特な凹みやインクの滲みのように、デジタルでは再現できない味のある仕上がりが魅力です。名刺や案内状、パッケージと幅広い製品で使用され、シンプルで落ち着いた雰囲気だけでなく、蛍光色のようにポップで遊び心のあるデザインもつくれます。羽車のサイトにも制作事例として多様なデザインを公開していますので、気になる方は覗いてみてください。その他にも、グラフィック社から刊行された『世界の活版印刷グラフィック・コレクション』や『活版印刷の本 手紙社 凹凸感と活字を楽しむ活版印刷のデザイン帖』もおすすめです。
羽車制作事例(上:活版印刷の名刺/下:多色活版印刷のアートカード)
現在使用されている活版印刷機は、中古の流通や復刻、改造・再生品が主流となっており、なかでも50年以上前に製造されたドイツのハイデルベルグ社製が多く利用されています。日常的なメンテナンスやオーバーホールをしながら、50年以上も動き続けられる耐久性の高さや構造に驚くと同時に、設計者や製造者の技術の素晴らしさを感じます。この先も、活版印刷の技術や文化が途絶えることなく続いていくことを願いたいですね。
前編・中編・後編と3記事にわたり、活版印刷にまつわる世界と日本の歴史、再評価されている理由、魅力やデザインについてご紹介しました。近年は再注目されていることもあり、活版印刷をより身近に感じる機会も増えています。昨年には、ミニチュアサイズの活版印刷機がついたムック本が再び発売され話題になりました。街中には体験できるスタジオやアトリエも存在しますので、挑戦したい方はぜひ検索してみてください。そして、もし活版印刷の施されたアイテムを手にする機会があった時は、手触りや文字の凹凸具合をじっくりと確かめてみてください。指先から活版印刷ならではのわずかな凹凸が感じられ、温もりある魅力に心が動かされるかもしれません。
文・鶴田有紀
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〈参考文献〉
・『世界の活版印刷グラフィック・コレクション』(シャーロット・リバース著/グラフィック社)
・活版印刷の本 手紙社 凹凸感と活字を楽しむかわいい活版印刷のデザイン帖』(手紙社 著/グラフィック社)
・数字にこだわらない、直観のものづくり。|HAGURUMA 100th ANNIVERSARY 2018







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