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室町時代から受け継がれる張り子製のお面~歴史や文化を辿る~

2023/09/12

  • お面

人や動物、神様、妖怪と、さまざまな種類がある「お面」は、お祭りを盛りあげたり伝統芸能の舞台に花を添えたりと、古くから多様な場面で使われてきました。地域によっては、伝統工芸品に指定されているため、馴染みのある人もいるのではないでしょうか。今回は、そんなお面の歴史や文化を辿っていきます。

室町時代から受け継がれる張り子製のお面~歴史や文化を辿る~


古くから猟に利用したり、病の治癒や祈祷などにも使われたりと、世界中で作られてきたお面。日本でも、石器時代には存在していた といわれています。当時のお面は土製で、弥生時代に入ると木製のお面も作られ始めました。

7世紀頃になると、日本最古の舞台芸能といわれている「伎楽(ぎがく)」が、「伎楽面」とともに中国から伝来。人の喜怒哀楽を、大げさに表現した滑稽なデザインが特徴のお面です。その半世紀後、平安時代には「舞楽」や「田楽」などの芸能が広まり、室町時代に入ると、「能楽」によって「能面」が定着します。

そして、紙を貼り合わせて作る「張り子製のお面」が誕生したのも室町時代です。当時は、城下町や和紙の生産が盛んな地域を中心に作られていました。お面の土台となる木型や土型に、水で湿らせた数枚の和紙を糊で張り合わせ、乾燥したらお面を型から抜き、目や鼻、紐を通す位置に焼き火箸で穴を開けます。その後、「胡粉(ごふん)」と呼ばれる貝殻を粉末にした白い粉を塗り、乾燥後は絵具で色をつけ、最後に目や鼻を筆で描き足します。

その後、安く大量に生産できる張り子製のお面が主流になると、木製のお面は、次第に見かけることが少なくなっていきました。そしてお面の変化は続き、昭和初期になるとセルロイド製のお面が、昭和25年にはプラスチック製のお面も登場します。

室町時代から受け継がれる張り子製のお面~歴史や文化を辿る~


プラスチック製のお面が登場したこともあり、以前より張り子製のお面を見かける機会は減りましたが、今でも伝統芸能や郷土玩具、行事用として作られています。
例えば関西では、大阪府大阪市や兵庫県姫路市が産地として有名です。なかでも姫路市の「姫路張り子」は、明治初期に大阪で張り子の技術を学んだ、姫路藩の絵師「豊岡直七」 が作り始めたことや、お面の材料である「反故和紙(ほごわし)」が豊富であった ことも、盛んに作られていた理由だと言われています。

反故和紙とは、書き損じや古くなった紙のことです。昔は、古い帳簿や半紙判、古文書なども反故和紙として使われていました。古い紙は水分が抜けているため、下地にすると反りにくく、文字を書くために使われていた墨が虫に強い など、お面づくりに適していたのです。なにより、紙を無駄にしない工夫が素晴らしいですよね。

そして、姫路張り子のお面は、薄張りですが丈夫で素朴な味わいのある彩色が特徴です。お面の種類も約80 と多く、一般的な「ひょっとこ」や「おかめ」は勿論、動物や妖怪、桃太郎、般若、十二支など、多種多様なお面が作られています。

室町時代から受け継がれる張り子製のお面~歴史や文化を辿る~


その他にも、2月に行われる「節分」では、「鬼は外、福は内」という声とともに豆をまき、邪気を払い、福を呼び込みます。家庭で行われる際は、誰かが鬼のお面を被り、鬼役をすることが一般的でしょう。そんな節分の鬼ですが、じつは5種類あることをご存じでしょうか。見かけることの多い赤鬼と青鬼の他にも、黄(あるいは白)、緑、黒の鬼が存在する のです。

この5色は、仏教や五行説が関係しており、赤鬼に豆をまくことによって「己の悪心が取り除かれる」、青鬼は「幸福や利益に恵まれる」、黄(白)鬼は「公平な判断ができるようになる」、緑鬼は「健康を願う」、そして黒鬼は「卑しい気持ちを追い払い、心の平穏を祈願する」という意味 があります。ぜひ節分で豆まきを行う時は、願いに合った色のお面を用意してみてください。

室町時代から受け継がれる張り子製のお面~歴史や文化を辿る~


そして、張り子製のお面の魅力は、東西によってお面のつくりが微妙に異なるところにもあります。代表的なものの1つが、稲荷信仰と深い結びつきのある「狐面」です。江戸時代に流行した、全国の稲荷神社で行われる「初午祭り」をきっかけに誕生しました。現在も、東北から九州までさまざまな表情の狐面が作られています。

そして、愛知県を境に東日本では厳しい表情の狐面が、西日本では優しい表情に加えて、口が開いていたり黄色や青色で鼻筋が描かれていたりする、狐面が作られているそうです。その他にも、東日本の天狗のお面は鼻が高く、西日本は低い傾向にあることもわかっています。

作られる地域や用途などによって、さまざまな表情を見せる張り子製のお面。昔に比べると生産量は減っていますが、伝統芸能や行事に欠かせないものとして、今もなお職人さんの手で丁寧に作られています。また、お祭りによってはプラスチック製ではなく、張り子製のお面を販売しているところもあるようです。見かけた際は手に取って、その質感や色のつけ方などをじっくりと眺めてみるのも良いかもしれません。


文・鶴田有紀


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〈参考文献〉
・『お面』|日本玩具博物館監修|文溪堂
https://common.bunkei.co.jp/books/3160.html
・兵庫の玩具|たつの市ホームページ
https://www.city.tatsuno.lg.jp/rekibun/gangu.html
・日本色彩学会誌 第42巻|日本文化と中国文化における鬼を表す色―和文化の基底に見られる陰陽五行説―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsaj/42/3%2B/42_114/_pdf

 

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